大人のADHDの治療について
学童期には見過ごされていて、成人になって自分は他の人よりミスが多い、段取りが悪いと上司などから叱られたり、配偶者にも 不満を訴えられたりして自信を失い、「自分はどうしてこうなのだろうか?」と問いかけて、結局ADHDにたどり着くような人が多いように思います。
また、学童期はさほど問題なく、むしろ知能がよく、優等生として活躍されていた方でも、複雑な大人の社会に入って、知能だけではカバーしきれなくなって不適応をおこされて悩まれ、自らのADHDの可能性に気づかれる方も多いように思います。
特に、ADHDの診断・治療で注意を払わなければならないのは、双極性障害の合併です。
私見では、程度の差異はさまざまですが、70%程度の高率に双極性障害が合併しているものと考えています。しかし、双極性障害を合併しているからといって、やみくもに双極性障害の治療もするのは、もちろんナンセンスです。
もし、ADHDに合併する双極性障害が比較的軽度であれば、ADHDの治療のみで、通常は双極性障害も改善します。なぜなら、ADHDの治療が奏功すれば、社会適応性もよくなりそのことによってストレスも減るので、双極性障害も改善して気分の起伏もほとんどなくなるからです。ただし、その後も双極性障害の経過には十分な注意を払う必要はあるでしょう。
軽度以上の双極性障害の合併では、双極性障害の治療も合わせて行わなければADHDの治療成果は上がりにくいように思われます。なぜなら、この程度の双極性障害を合併していると、例え厳密にADHDの治療を行っても、それだけでは双極性障害による気分の起伏のコントロールはできないからです。気分の起伏のコントロールができていなければ、気分の低い時期には、当然、集中力や意欲低下が存在するのでADHDの治療薬は十分に効果を発揮することができないからです。すなわち、気分の起伏に伴ってADHDの治療薬が見かけ上、効いているようにみえたり、全く効いていないようにみえたりし効果が一定せぬため、ADHDの治療成果も十分に上がらないのです。
もし、合併する双極性障害がより進行すれば、ほとんどのケースではうつ状態が前景に立ってきて、そのことによって意欲低下・集中力低下は顕著になります。このような状態では、ADHDの治療薬はほとんど効きません。まず、双極性障害を丹念に治療することから始めなければなりません。
この辺の事情に精通している精神科医でないと大人のADHDの治療は困難であり、成果はあがらないと思われます。