認知療法
認知の歪みのパターン
認知療法では、次に、「自動思考」にどのような「認知の歪み」が存在するかを分析します。
バーンズという人は、「認知の歪み」を10のパターンに分類しました。
記述した自分の「自動思考」のそれぞれがどのパターンに分類されるか考えてみてください。
「認知の歪み」の公式を手元において繰り返し検討し、自分が陥りやすいパターンを知るようにすれば効果的です。
10のパターンはそれぞれ完全に独立したものではなく互いに重なり合っている部分がありますので、あまり厳密に分類することにこだわる必要もないと思います。 参考程度でもよいでしょう。
1. 全か無か思考(all-or-nothing thinking)
ほとんどの問題は, 白か黒かのどちらかに決めることはできず、事実はそれらの中間にあるものですが、物事を見るときに、
「白か黒か」という両極端の見方をしてしまうことを「全か無か思考」といいます。
<例>自分のやった仕事に少しの欠点が見つかって、「完全な失敗だ」と思う。
いつもAをとっている学生がたまたまBをとって「もう完全にだめだ」と考える。
このような考え方をすると、「完全に○○である」ということは実際にはありえないのに、いきすぎた自分の要求に自らをあわせようとしていることになります。
これは無理なことなので、失敗して自信を失うことになります。
日本でも古くから「中庸」ということばが尊ばれてきましたが、「白か黒か」という両極端 の見方をせずに、柔軟にものを見ることが大切です。
普段は柔軟な見方ができている人でも、ストレスがかかった状況が長く続くと、往々にしてこのような硬直した考え方に陥りがちになります。
そしてこのことにより、一層ストレスがかかったり、気分が暗くなったりして、悪循環になりかねません。「いつも~である」、
「完全に~である」、「決して~でない」といった考え方を頻繁にしてないか、一度、自分の思考パターンをふりかえってみてください。
2.一般化のしすぎ(overgeneralization)
1つの良くない出来事があると,「いつも決まってこうだ」、「うまくいったためしがない」などと考えること。
<例>ある若い男性が、好意を寄せている女性に一度デートを申しこんで断られただけなのに、「いつもこうだ。自分は決して女性とつきあうことなんかできない」と考える。
このような考え方をすると、いやなことが繰り返し起こっているように感じてしまうので、憂うつになってしまいます。
3. 心のフィルター(mental filter)
1つの良くないことにこだわってくよくよ考え、他のことはすべて無視してしまうこと。ちょうど1滴のインクがコップ全体の水を黒くしてしまうように。
「心のサングラス」ともいう。
<例>会社である企画を提案し、一般の評価はたいへんよいのに、ある人から受けた些細な批評が頭から離れず悩む。
このような思考パターンに陥ると、なにごともネガティブにみてしまうので、気分は、当然暗くなります。
4.マイナス化思考(disqualifying the positive)
単によいことを無視するだけでなく、なんでもないことやよい出来事を悪い出来事にすり替えてしまうこと。
<例 >自分は能力がないと考えている人が、仕事がうまくいっても「これはまぐれだ」と考える
(このような考え方をする人は、仕事がうまくいかないときは、「やっぱり、自分はダメなんだ」と考える)。
「心のフィルター」は、ある出来事の肯定的な側面を無視することをいいますが、「マイナス化思考」は肯定的な側面の価値を
引き下げることになり、いっそう悪い認知の歪みのパターンということができます。
5. 結論の飛躍(jumping to conclusion)
根拠もないのに悲観的な結論を出してしまう
a. 心の読みすぎ(mind reading):ある人が自分に悪く反応したと早合点してしまうこと
<例>会社の上司に仕事の経過を報告したが、上司はあまり関心をはらってくれない、むしろそっけない態度のように思え、「この頃、自分は上司に嫌われている」と考えた。(上司は、例えば、より急ぐべき案件に心を奪われていただけかもしれない。)
b. 先読みの誤り(the fortune teller error):事態は確実に悪くなると決めつけること
<例>「この病気は決してなおらない」と考える。(うつになるとこのような考え方に陥ることがよくあります。)
6. 誇大視と過小評価(magnification and minimization)
自分の短所や失敗を過大に考え,逆に長所や成功したことを過小評価する。「双眼鏡のトリック」とも言う。
<例>些細なミスをおかして、「なんてことだ。これですべて台無しだ」と考える。
(この例では、失敗の意味を過大に考えているので「誇大視」といえる。些 細な失敗を犯したことで今までのことが100%の失敗になると考えているとすれば、「全か無か思考」ともいえる。このように「認知の歪み」のパターンは互 いに重なりあっている場合も多く、いつもどれか一つの分類だけにあてはまるわけではない。)
7. 感情的決めつけ(emotional reasoning)
自分の感情が現実をリアルに反映して、事実を証明する証拠であるかのように考えてしまうこと。
<例>「不安を感じている。だから失敗するに違いない。」
感情的決めつけは、ネガティブな思考、感情が前面に出てきていて、ポジティブな思考、感情が後退しているような場面で生じやすい
「認知の歪み」のパターンであることを考えれば、「心のフィルター」と密接な関係を持つことが分かります。
8. すべき思考(should thinking)
何かやろうとする時に「~すべき]「~すべきでない」と考える。
<例>「あの時、父親は怒るべきではなかった。」
「第二次世界大戦はおこってはならなかった。」
(→第二次世界大戦はおこるべきではなかった。物事の好き嫌いは別として、おこったことは現実として受け入れることが大切です。)
何かをやろうとするときに、常に「~すべき」「~すべきでない」と考えると、その基準に合わせようとして自分自身を追い詰めることになります。
できなかった場合は、あたかも自分が罰せられたように感じて、自己嫌悪に陥ったり、暗い気分になりやすいのです。
「すべき思考」を他人に向けると、他人の価値基 準とは往々にして合いませんから、イライラや怒りを感じることになります。
9. レッテル貼り(labeling and mislabeling)
ミスを犯した時に,「自分は敗北者だ」、「とんまもの!」などと自分にネガティブなレッテルを貼ってしまうこと。
レッテル貼りは、「一般化のしすぎ]が極端な形で現れたものです。レッテル貼りをすると、感情に巻き込まれて冷静な判断ができなくなります。
10. 自己関連づけ(personalization)
何か良くないことが起こった時、自分に責任がないような場合でも自分のせいにしてしまうこと。
<例>断酒できない夫を前にして、「自分はダメな妻だ。夫が酒をやめることができないのは自分の責任だ」と考える。
他人に100%の影響を及ぼすことは不可能です。
よくないことがおこった場合、それを自分の責任と考えるよりは、どうすれば問題を解決できるのかを考えるほうが健全で大切なことなのです。
「自己関連づけ」の思考パターンを繰り返すと、罪の意識を感じることになり、その結果自己評価が低下してしまいます。